2012年11月25日日曜日

萬屋直人「旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。」



世界は穏やかに滅びつつあった。「喪失症」が蔓延し、次々と人間がいなくなっていったのだ。人々は名前を失い、色彩を失い、やがて存在自体を喪失してい く…。そんな世界を一台のスーパーカブが走っていた。乗っているのは少年と少女。他の人たちと同様に「喪失症」に罹った彼らは、学校も家も捨てて旅に出 た。目指すのは、世界の果て。辿り着くのかわからない。でも旅をやめようとは思わない。いつか互いが消えてしまう日が来たとしても、後悔したくないから。 記録と記憶を失った世界で、一冊の日記帳とともに旅する少年と少女の物語。 




 あらすじにある通り、「喪失症」という人が生きた存在ごと消し去ってしまう病気が蔓延した世界を、カブに乗って旅する少年と少女の物語。ちょくちょく2chとかで話題に出るので買ってみた。

 物語として派手な起伏がなくあくまで淡々と進んでいくため、この小説の雰囲気が好きになれるかどうかで評価は変わってくると思う。個人的にこの手の終末系というか、寂寥感のある雰囲気の物語はかなり好きなので楽しんで読むことができた。

 作品自体は大まかに三章で構成されており、旅人の主人公コンビがその土地で出会った人々と交流するという形式は同レーベルの「キノの旅」を彷彿とさせるけど、「キノの旅」と違ってこちらはみんな前向きというか、全体的にいい人しかいない。そもそもほぼ初対面(?)な高校生の男女が旅をするなんて設定なのだから、その辺りに突っ込みをいれるのは野暮なのかも。
 
 Wikipediaで調べてみたところ、この小説は続巻予定があるらしいんだけど、一向に出る気配はない(初版が出たのは2008年)。でも、これはこれで結構きれいに終わっている気もするし、次の話はなくてもいいのかなとは思う。二人の旅の結末は読者の皆様のご想像にお任せします、みたいな。
 そういうところも含めて、かなりお気に入りな一冊。やっぱりライトノベルって単巻モノがいいよね。

2012年11月5日月曜日

竜ノ湖太郎「問題児たちが異世界から来るそうですよ?YES! ウサギが呼びました!」



 世界に飽きていた逆廻十六夜に届いた一通の招待状。『全てを捨て、“箱庭”に来られたし』と書かれた手紙を読んだ瞬間―完全無欠な異世界にいました!そこ には猫を連れた無口な少女と高飛車なお嬢さま、そして彼らを呼んだ張本人の黒ウサギ。ウサギが箱庭世界のルールを説明しているさなか「魔王を倒そうぜ!」 と十六夜が言いだして!?そんなこと黒ウサギは頼んでいないのですがっ!!超問題児3人と黒ウサギの明日はどっちだ。



 タイトルから漂う地雷臭に反して、内容は意外にも普通に異世界ファンタジーをやっていたので驚いた。

 おおまかなあらすじとしては、異世界から召還された主人公三人が衰退したコミュニティを再興し、奪われた仲間たちを取り返すために、魔王を打倒を目標に敵と戦っていくというかなり王道な物語。萌えキャラやサービスシーンはあれど、ラブコメ要素はなく、単に俺tueeを楽しむ小説といった印象。世界最強クラスだった主人公たちでも適うかどうか分からないような魔王の存在など、これからは敵もインフレしてきそうで楽しみ。

 主人公たちの目標は明確であるものの、神話やら童話やらを練り込んだ世界観やギフトという設定も凝っていて、それだけに、もうちょっと表紙を一般向けというか、「とある魔術の禁書目録」みたいな中高生層にも受ける感じにしても良かったのではないかと思う。ちょっとこの表紙だと、単なる萌えラブコメみたいな印象しか受けない。黒ウサギは確かに可愛いけどね!

 一巻だけでは、主人公たちの過去が殆ど語られることなく、各々の能力に説得力が感じられなかったのが残念だけど、もはや最近のライトノベルは続刊ありきのストーリー構成をしていることが多い(ライトノベルはそういうところも非常に漫画的だと思う)ので、そのあたりはこの先に期待したい。