2012年10月6日土曜日

神林長平「言壺」


 『私を生んだのは姉だった』

小説家の解良(けら)は、万能著述支援用マシン“ワーカム”から、言語空間を揺るがす文章の支援を拒否される。
友人の古屋は、解良の文章が世界を崩壊させる危険性を指摘するが・・・・・

「綺文」ほか、地上800階の階層社会で太古の“小説”を夢見る家族の物語「没文」、
個人が所有するポットで言葉を育てる世界を描いた「栽培文」など
9篇の連作集にして、神林言語SFの極北。

第16回日本SF大賞受賞作




 『私を生んだのは姉だった。』

 この一文を発端とした言語と人間の戦いを描いた言語SF……でいいのかな。
 題名のとおり「言葉」をテーマにした作品。前に読んだ雪風はすらすらと読めたんだけど、今回は結構難しくて読むのにだいぶ苦労した。流石に解説を書いている円城塔の「Boy’s Surface」ほどではなかったけど(というかあれはもう理解するのを放棄した)、「乱文」辺りは読んだ気になっているのだけで、実際は十分の一も理解できなかったような気がする。

 小説家が作中に登場するワーカムという万能ワードプロセッサーにこのおかしな一文を無理矢理認証させたことで、言語空間が崩壊していく――というのがこの作品の冒頭に収録された「綺文」のおおまかなあらすじ。短編集ではあるもののすべての作品はここから始まっており、こういう独創的な発想は流石。というか、1994年というまだそこまでインターネットも発達してなかったような時代にこんな傑作を書けたことには驚きを隠しきれない。

 それにしても、最後の「碑文」の我とは誰なんだろう。作者なのか、栽培文の娘なのか、それとも、言葉そのものなのか。

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