2012年7月29日日曜日

多崎礼「煌夜祭」




十八諸島の世界を巡り、世界各地で話を集め、他の土地へと伝え歩く。それが我ら語り部の生業。冬至の夜、我らは島主の館に集い、夜を通じて話をする。それが煌夜祭―年に一度の語り部の祭。お話ししよう。夜空を焦がす煌夜祭の炎壇でも照らすことの出来ない、真の闇に隠された恐ろしい魔物の物語を…廃墟となった島主の館で、今年もまた二人だけの煌夜祭が始まった―!第2回C・NOVELS大賞受賞作。


 年に一度だけ催される煌夜祭で、二人の語り部が交互に物語を語っていくという短編連作。ジャンルはファンタジーです。

 この作品の物語全体の大切なファクターなのが、魔物。外見は人と変わらないものの、日光を嫌う不死の存在であり、また彼らは冬至の夜に愛している者を食べてしまいたいという欲求に襲われてしまう。

 ――と書くとそこまで目新しさを感じない設定だけど、それを各話で個人の趣向や国家レベルと上手く絡めているのが良かった。こういう無理なく複数のテーマにアプローチすることが出来るのが短編連作の強みだと思う。

 ただその分、一話終わるごとに手が止まってしまうのが難点なんだけど、この作品は読み進めていくうちに一つ一つの物語が部分部分重なりあっていき、それにつれて段々と二人の語り部の正体までもが明らかになっていくというパズル的構成になっていて、最後までテンションが下がることがないのも素晴らしい。

 この作品がデビュー作となった多崎礼先生ですが、投稿歴はなんと驚きの十七年。その長い下積み自体に培ったのであろう描写力と構成力は圧巻の一言。良い意味で、読んでいて「新人らしさ」というのは一切感じられず、熟練の作家が書いた作品だと言われても納得してしまいそうなくらい。

 長い巻数に渡って繰り広げられる重厚なファンタジー作品も良いですけど、たまにはこういった静かな単巻作品も良いものです。

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