2012年7月31日火曜日

丸山くがね「オーバーロード1 不死者の王」




 その日、一大ブームを起こしたゲームはサービス終了を迎えるはずだった。
――しかし、
終了時間をすぎてもログアウトしないゲーム。
意思を持ち始めたノンプレイヤーキャラクター。
なにやらギルドごと、異世界に飛ばされてしまったらしい! ?

骸骨の肉体を持つ最強の大魔法使い――モモンガの本当の伝説がここからはじまる!


ネットで圧倒的人気を誇るWEB小説が堂々書籍化!!
イラスト、総フルカラー掲載!!



SAOや魔法科高校の劣等生、ログホライズンなど最近ではweb小説が書籍化されたものが好評を博しているようですが、先日発売されたこのオーバーロードも同じようにweb小説投稿サイト「小説家になろう」に連載されたものを書籍化したものです。web連載→書籍化という図式は出版時には既に一定のファンがいるため、初めからある程度の売れ行きが見込まれるというのが心強いですね。

ただそれに味を占めた出版社がweb小説書籍化を連発されると、書籍化作品全体のクオリティーの低下に陥ってしまうような気がするのですが、その点に関してはこの作品は書籍化されるのが納得のクオリティーだと思います。

あらすじとしては、ネトゲ世界で超強い主人公がネトゲのキャラクターそのままの姿でファンタジー世界へ放り込まれるという、いわゆる「VRMMORPGの最強もの」となっていて、これは「小説家になろう」というサイトではかなり人気を誇っているジャンルだったり。

今回の書籍化にあたって、新キャラ(ヒロイン)が追加されたことで、それに伴ってラブコメっぽい描写が増えていたり、そもそもあらすじが変わっていたりなど、web版と比べて大きく加筆修正を行っています(たぶんこの先はweb版とは異なる展開になったりするんじゃないかな)。これ実際ほとんど書き直したんだろうなあ……。

黒をベースにした装丁やダークファンタジーっぽい表紙も格好良くて非常に満足。また各章の頭にはカラーの挿絵や巻末のキャラクター紹介(今回紹介されているのはモモンガ、アルベド、アウラ、マーレの四人)もなかなか良い。サイズは普通のライトノベルよりも少し大きめのB6で、ページ数も400ページ近くもあってかなり厚く、これで千円はかなり安いと思う。つーか400ページあっても、「小説家になろう」に投稿されている「オーバーロード:前編」の全98部中、13部あたりまでしか収録されてないって……このままだと軽くシリーズ十冊は超えそうだなあ。それはそれでかなり楽しみではあるのだけど。

ひとつ注意点としては、身も蓋もない言い方をするなら、この物語は基本主人公至上主義であり、周りが主人公を持ち上げまくっているため、そういうのが苦手な方は手を出さないほうがいいかもしれません。逆に主人公が敵を圧倒的力で屠ってくのに爽快感を覚える方にはジャストミートでしょう。どちらにせよ、購入前には一度web版に目を通してみることをお勧めします。

とにかく巻末の予告によれば続巻は今年の冬発売ということで、web版も含め、かなり楽しみです。

2012年7月29日日曜日

阿部共実「空が灰色だから」 1巻



 毒々しい赤のマーブルにデフォルメちっくな女の子の表紙が目を引く、「空が灰色だから」。最近色んなところで話題なので購入。

裏表紙に「10代女子を中心に、人々のうまくいかない日常を描く」とあるように、他人と違っているが故に、どこかしら孤独を孕んでいる人々が中心の一話完結オムニバス。

絵は表紙のとおり、久米田先生っぽいデフォルメされているのが特徴。キャラクターが普段隠している本音を語ったりするときに、キャラがベタで真っ黒に塗りつぶされる演出は怖くて新鮮だった。

収録されているのは十二編(+一遍)で、まとめてこれというジャンル分けはすることができず、くすっと笑えるコメディや胸を打つような泣ける話から一切救われることのない暗い話、はたまた落ちのないシュール一辺倒の話まで幅広い。最初はコメディのつもりで読んでいたら、途中で一気にどん底に落とされることがあったりして、読んでいて心を抉られることも多々あったり。
かなり心にくる濃い話が多いので、本当は週刊誌で一話一話できるだけ間を空けて読みたい。そんなかなり珍しい作品だと思う。

というか、どうしてこれが少年週刊誌で連載されているんだろう。少年誌にしてはシュールで毒が強すぎるし、週刊誌でこのクオリティのオムニバスを連載できるなんて、この先どこかでぽっきりと筆が折れてしまわないか心配。

越谷オサム「陽だまりの彼女」



幼馴染みと十年ぶりに再会した俺。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、俺には計り知れない過去を抱えているようで―その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさもすべてつまった完全無欠の恋愛小説。


正直なところ、恋愛小説ってあんまり読まないんですよ。ライトノベルとかでよくラブコメ要素が入っている作品とかならたまに読むんだけど、ラブストーリー一辺倒ってのがイマイチ気恥ずかしくて読めない。ぶっちゃけ一人の男子としては、エロ本買うよりも恥ずかしいし(笑)。

とまあ、そんな感じの僕が興味本位で買ってみたのが、本作「陽だまりの彼女」。越谷オサムさんの他の作品は『階段途中のビッグ・ノイズ』しか読んでないんだけど、ベタベタなんだけども読んでて気持ちがいい小説を買くなーという印象。王道を上手くかける人って素晴らしいと思います。

そして本作も、十年ぶりに幼馴染みと再会したところから始まるベッタベタな恋愛小説。といっても、ほとんど初めから両思いなので、ラブストーリーにありがちな葛藤とか恋敵的な第三者もなく、ただひたすら主人公とヒロインがいちゃいちゃしてるだけなんですけど。つーか、読んでいる途中で、壁を殴りたくなるほどのバカップルぶりを見せられる読者はどうしたらいいというのか。

結末については賛否両論あるとは思うんだけど、個人的にはそんなに好きじゃないかな。まあ、泣いたけどさ! ビーチボーイズの歌詞引用してるあたりは本当に卑怯だと思う。
あと、西島大介さんの可愛らしい絵がグッドです。媚びてない感じが非常によいと思います。

飲茶「史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち」




古代インド哲学・仏教・老荘思想・禅…、あらゆる東洋哲学は、融合と変質を遂げながら、なぜ東へ東へ伝わり、日本にたどり着いたのか?
釈迦・龍樹・老子・道元…、「真理(最強)」を自称する、恐るべき東洋の哲人たちが起こした奇跡とは?


とことんわかりやすい言葉で、哲学の面白さを存分に伝える、最強ナビゲーター・飲茶氏による、待望の東洋哲学入門書。
大反響を呼んだ『史上最強の哲学入門』に続き、今回も「バキ」シリーズで絶大な人気を誇る板垣恵介氏がカバーイラストを描き下ろした。


「え? なんのために東洋哲学は「東」に向かったかって?
そんなの決まっておるじゃろう?
おぬし(読者)に会いにくるためじゃよ!!」



哲学書界でもっとも漢気溢れた表紙であった前作に続いて、今回の表紙もバキの板垣恵介先生が担当です。前作が西洋哲学オンリーだったのに対し、今作はタイトル通り東洋が舞台。なんか本が妙に厚いなーと思えば、なんと400ページ(前作は280ページ近く)超えで、圧巻のボリューム。

まだ一通り読み通しただけで、詳しいことはかけないんだけど、今回もやっぱり非常にわかりやすい。この人の本って、(理解しやすい)入門書としては最高の部類にはいるのではないだろうか。
文体が妙に軽かったり、たまにバキネタが入っていたり、江頭2:50の名言が飛び出したりと楽しみながら読めるので、前作が気に入った方ならまず購入して間違いないかと。あと次回予告も書いてあって、ウィトゲンシュタインや西田幾多郎、スピノザなどの西洋哲学者と今回登場した東洋哲学者による対談バトルらしい。そっちも滅茶苦茶楽しみ。

ちなみに章立てはこんな感じ。

・インド哲学 ヤージュニャヴァルキヤ
釈迦
龍樹

・中国哲学  孔子
墨子
孟子
荀子
韓非子
老子
荘子

・日本哲学  親鸞
栄西
道元

魔法使いの夜 感想




1980年後半。華やかさと活力に満ちた時代の黄昏時。都会に下りてきた少年は、現代に生きる二人の魔女とすれ違う。少年はごく自然に暮らしてきて、彼女は凛々しく胸を張って、少女は眠るように隠れ住んで。三者三様の星の巡り。交わるることなんてもってのほか。何もかも違う三人の共同生活が始まるのは、あと、もうちょっと先の話



Fate/stay nightで手に汗握る中二病バトルを展開し、翌年に発売した続編hollow ataraxiaではサーヴァントやマスターの日常に癒されてから幾月。まさか、ここまで待たされることになるとは思いませんでしたよ、TYPE-MOONさん。どれだけamazonから延期メールが来たことか(笑)

そんなわけで、TYPE-MOON七年ぶりの新作「魔法使いの夜」の感想です。

今作は選択肢一切なし(番外編は除く)の完全一本道で、死亡フラグに溢れまくっていた月姫やFateと違いプレイ時間はかなり短めで、大体十七~八時間くらいだったかな。もう少しシナリオ量を増やしても良かったんじゃないのかしらんとか思ったりするわけだけど、まあそれは仕方がないのかもしれない。

というのも、演出が物凄い。

ノベルゲーをやっているというよりも、映画を見ているのに近い感じで、こりゃあ延期してしまうのも仕方がないよなぁ、と。新海誠ばりに細部まで書き込まれている背景や、クラシックのアレンジを多用した音楽など素材自体のクオリティの高さも相まって、ヴィジュアルノベルとしては最高峰なのは間違いない(と思う)。

シナリオに関しては、最後の戦闘シーンの盛り上がりがやや欠けていたのが気になったものの、それを除いても十分楽しめたと思います。あえて草十郎を語り部として置かずに、徹底的に三人称で進めていくというスタンスも面白く、プレイ後に思ったのが、主要人物である草十郎、青子、有珠のどれもが読者の視点に近くにいなかったからこその三人称だったのかもしれないなーと。いや、根拠とか全然無いんですけど。

あと個人的な要望としては、草十郎が雑居してからの日常をもうちょっと描いてほしかった。間章や番外編だけだと少々物足りない。まあ、それは確実に出るであろう続編orファンディスクに期待ということで。

シナリオライターである奈須きのこさんが「魔法使いの夜」を「原点」というだけあり、過去作品のキャラクターを髣髴とさせる登場人物・展開・関係性が出てきたりして、型月ファンとしてつい口元が緩んでしまう作品であったと思います。正直なところ、多すぎるスピンオフ作品や次回作までの長すぎる空白には呆れてしまうこともありましたが、このような作品が生み出せるのなら、これから先も1ファンとして追って行くしかないのかなぁと。というわけで次回作は2年後くらいまでにお願いします(笑)

京極夏彦「鉄鼠の檻」




 この世には不思議なことなど何もないのだよ―古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。


 シリーズ四作目で、今作のテーマは「禅」。
 ページ数も過去三作と比べても最長の1300ページ超え。このシリーズは去年くらいからマイペースに追いかけているわけだけど、いい加減この厚さにも慣れてきました。思えば「姑獲鳥の夏」の半分もなくて、昔はあれでも十分厚く感じていた自分が懐かしい。後、長さの割に読みやすいってのは非常に良いです。

 読み始める直前に別の本で、東洋哲学(京極堂は禅と哲学は全く違うと本編で述べてたけど)に軽く触れていたこともあり、ある程度は理解できたと思う。勿論理論上での話であって、座禅も組んだことのない僕が禅のなんたるかを語るなんて不可能なわけだけど。

 とにかく次作「絡新婦の理」も楽しみなので、ある程度積んでる本を消化したら挑戦してみようと思います。


九岡望「エスケヱプ・スピヰド」




 昭和一〇一年夏、廃墟の町“尽天”。暴走した戦闘兵器に襲われた叶葉は、棺で眠る不思議な少年に出会う。命令無しに動けないという少年に、叶葉は自分を助けるよう頼む。それは、少女と少年が“主従の契約”を結んだ瞬間だった。少年は、軍最強の兵器“鬼虫”の“蜂”九曜と名乗った。兵器ゆえに人としての感情が欠落している九曜だが、叶葉はそんな彼を一人の人間として扱い交流していく。徐々に心を通わせていく二人。しかし平穏な日々は、同じ鬼虫である“蜻蛉”竜胆の飛来によって打ち砕かれ―!?閉じられた町を舞台に、最強の兵器たちが繰り広げるノンストップ・アクション。第18回電撃小説大賞“大賞”受賞作。


 第18回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作。発刊されてから二ヶ月で、今更ながら読み終わりました。
 〈大賞〉受賞作というだけあって、かなり筆力のある作品だと思います。昭和が百年近く続いているという設定のためか、どこか堅苦しさのある文体やタイトルからも感じられる、近代的な和風テイストが非常に良い。
 ただ、物語としては少々物足りないというか、良くも悪くも続きが予想できてしまう展開のため、あまりに戦いがあっさりしてるのが気になりました。敵が一人しかいないという設定上仕方がないのかもしれないけど、折角描写力が優れているのだから、もう少し山が欲しかったかな。
 と、文句を付けてみるものの、そんなのが気にならないくらい楽しめる作品でした。展開上これの続編というのは難しいかもしれないけど、できれば過去編とか書いて欲しいなぁ。

大槻ケンヂ「ステーシーズ―少女再殺全談」




近未来、いかなる存在の意志によるものか?15歳から17歳までの少女たちが突然、世界中で狂死を始めた。少女の屍は立ち上がり、人肉を求めてさすらう無数の大群と化す。屍少女“ステーシー”殱滅のために完全武装の再殺部隊が組織されるが、戦いは血まみれ、泥沼の様相を呈し、涙は枯れ、心は凍りついていく…。大槻ケンヂの音楽も含めた全作品の中でも、最も狂気性に満ちた名作に、外伝2編を加えた完全決定版。

 ゾンビものなんだけど、内容自体はホラーっぽくはない。むしろステーシーとして蘇った死体を再び殺さなければならない側の心理描写に重きを置いている。グロテスクでエロティックな描写が多い一方で、ステーシー化した少女を殺すことを通して、「愛」を描くというのは流石だなと思います。中原中也の「愛する人が死んだときは、自殺しなけりゃなりません」という引用が響く。
 ただ、後半があまりに滑稽無糖になり過ぎてついていけなかった部分もあり、個人的には「新興宗教オモイデ教」の方が好きかな。とにかく序章の出来が素晴らしいので、そこだけでも十分読むに値する作品だと思います。

中村九郎「樹海人魚」



 強大な力で街を破壊し、ひとびとを殺し、そのうえ何度死んでもよみがえる恐怖の存在―“人魚”。人間はその怪物を撃退し、飼い慣らし、“歌い手”と呼んで同類退治の道具としていた。歌い手を操り人魚を狩る“指揮者”の森実ミツオは何をやってもさえないグズの少年。しかし、記憶をなくした歌い手・真名川霙との出会いが、ミツオを変える。逆転重力、遅延時空に過不眠死。絶対零度のツンデレ・バービー、罵倒系お姉・由希にみだらなラビット―奇想につぐ奇想と流麗な人魚たちが物語を加速する。超絶詩的伝奇バトル&ラブ。


 初の中村九郎先生。
 噂はかねがね聞いていたんだけど、予想以上に独特のセンスの持ち主の方だなぁと。
 良い意味でも悪い意味でも詩的。正直小説としては内面描写が足りないというか、読む側が行間を想像しつつ読まないといけないという点は読みにくい。のだけど、所々でその独特の文体と物語とのピントが上手く合っているせいか、それがある意味で味にはなっていると思う。
 人魚など物語の設定はかなり面白かったので、続編もそのうち手を出してみようかな。
 それにしても、最後の一文がロマンチックで素晴らしい。

米澤穂信「クドリャフカの順番」




待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲―。この事件を解決して古典部の知名度を上げよう!目指すは文集の完売だ!!盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに…。大人気“古典部”シリーズ第3弾。


 「氷菓」、「愚者のエンドロール」に続く古典部シリーズ第三弾。アニメ化に伴って、最近の版は表紙が京アニver,に差し替えられているようです。

 今回の舞台は文化祭。これまでの二作の根底に文化祭があっただけに、読者としてもやっときたかーとテンションがあがっちゃいますね。といっても、あとがきにも書いてある通り、我らがホータロー君はひたすら文集を売っているだけなんですが(笑)。

 これまでの二作とは違い、本作は古典部の四人による複数視点。各々の内面がより深く描かれていて、より「青春」ミステリーっぽくなっています。料理対決や漫画研究部のごたごたは、非常にニヤニヤさせていただきました。

 ですが勿論、「ミステリー」の方も忘れてはいけない。古典部員に立ちはだかる(物理的な)山の問題と、連続盗難事件が段々絡み合ってくるのはかなり秀逸。ミステリーとしては、これまでで一番完成度が高く感じる。

 今回の主人公は古典部全員ということで、個人的には視点がころころ変わるのはあまり好きではないんですが、テンポがいいのでそこまでは気になりませんでした。にしても、このシリーズを読んでると、自分の灰色の高校時代を思い出してちょっと鬱になる。こんな青春を送ってみたかったなぁ……なんて。

大槻ケンヂ「グミ・チョコレート・パイン グミ編」



大橋賢三は高校二年生。学校にも家庭にも打ち解けられず、猛烈な自慰行為とマニアックな映画やロックの世界にひたる、さえない毎日を送っている。ある日賢三は、親友のカワボン、タクオ、山之上らと「オレたちは何かができるはずだ」と、周囲のものたちを見返すためにロックバンドの結成を決意するが…。あふれる性欲と、とめどないコンプレックスと、そして純愛のあいだで揺れる“愛と青春の旅立ち”。大槻ケンヂが熱く挑む自伝的大河小説、第一弾。


学生の頃、もしくは社会に出た今でも、(それが真実かどうかは別として)自分が他人とは違う特別な存在だと思いこんでいる人は多いと思う。人とは違う音楽、本、映画――そういったものを好むことで優越感に浸りつつも、自分自身はため込んだ鬱憤やコンプレックスを表現する手段がなく、ただ胸に焦燥感だけがくすぶっている。

是非、そんな青春時代を送っている人、または送っていた人に読んで欲しい一冊。下品で、バカで、泥臭くて、でも青春ってそんなものだよねって思えるそんな作品。この小説は、著者にとって自伝的でありながらも、そういった人にとっても自伝的であるような気がする。

大槻ケンヂのコミカルでちょっと寒い文体も、慣れれば味があるし、続きのチョコ編、パイン編を読むのが楽しみな作品。

清涼院流水「とくまでやる」



夏休み開けの2学期早々、フレアとクレア、双子の姉妹の通う名門女子高・聖光女学院の生徒が連続で自殺した。その週末、近くのビデオ屋で働く出有特馬の周囲でも、不可解な連続自殺がスタートする。毎日、必ず1人ずつ自殺する。この異常な事件は、本当に自殺連鎖なのか、それとも連続殺人か?特馬は、相棒の山本新悟や双子姉妹と事件の真相を探るが…。デュアル文庫に参上!大説家・清涼院流水が贈る「生誕30周年」メモリアル文章。ページをめくるたびに事件がカウントされる、衝撃のノン・ストップ・ミステリー。


 初めての大説。
 見開き1ページで、小説内時間が1日経過するという、日記系ミステリー小説。
 いや、ミステリー小説と言うよりは……何だろうこれ。超展開小説?
 タイトルの言葉遊びや、2ページで一日という構成に主を置いていて、ストーリー自体は二の次という印象。西尾維新のクビツリハイスクール辺りを思い出してしまうのは、彼が清涼院に影響を受けているからなのか。
 物語としては色々と破綻しているため、真剣にミステリーとして読めば必ず痛い目を見る一冊。そのかわり、肩を張らずに頭を空っぽにして読めば楽しめるでしょう。

大槻ケンヂ「グミ・チョコレート・パイン チョコ編」



大橋賢三は黒所高校二年生。周囲のものたちを見返すために、友人のカワボン、タクオ、山之上らとノイズ・バンドを結成する。一方、胸も大きく黒所高校一の美人と評判の山口美甘子もまた、学校では「くだらない人たち」に合わせてふるまっているが、心の中では、自分には人とは違う何かがあるはずだと思っていた。賢三は名画座での偶然の出会いから秘かに想いをよせていたが、美甘子は映画監督の大林森にスカウトされ女優になることを決意し、学校を去ってしまう…。―賢三、カワボン、タクオ、山之上、そして美甘子。いまそれぞれが立つ、夢と希望と愛と青春の交差点!大槻ケンヂが熱く挑む、自伝的大河小説、感涙の第2弾。

筋肉少女帯の大槻ケンヂによる自伝的大河青春小説第二弾。

今回はバンドの関連の話が中心で、筋肉少女帯や町田康、人生など実在のバンドをモチーフにしたキャラクターたちがちらっと登場。この辺りは、バンドブームの時代を生きてきた著者お得意のエッセイっぽさが感じられた。でもこの人のエッセイ、ネタが被っていることが結構あるんだよね……。リンダリンダラバーソウルなんかはもの凄く面白かったんだけど。

女優としてデビューし、チョキ十連発で賢三を追い抜いていった美甘子が恋を知っていき、今まで軽蔑してきた普通の少女になっていく様と、ほとんど最後まで(それも最後には変わってしまうのだけど)自分には何かあるはずだと信じ続ける賢三の対比は読んでいて胸が痛くなった。
終わり方も後味が悪いし、続きが気になって仕方ない。あとがきではハッピーエンドにしたいと書いていたけど、この先どうなるんだろう。

大槻ケンヂ「グミ・チョコレート・パイン パイン編」




冴えない日々を送る高校生、大橋賢三。山口美甘子に思いを寄せるも、彼女は学校を中退し、着実に女優への道を歩き始めていた。そんな美甘子に追いつこうと友人のカワボン、タクオとバンドを結成したが、美甘子は女優として鬼才を発揮しながら共演の俳優とのスキャンダルや秘められた恋を楽しんでいた…煩悩ばかりで健気な賢三と自由奔放な美甘子の青春は交錯するのか?青春大河巨編、ついに完結。

ようやく読み終わりました。三部作の最終巻、パイン編。
解説が滝本竜彦さんで、そういえばこの人も大槻ケンヂに影響を受けてるんだよね。

青春小説ってのは大まかに、青臭いエネルギーの爆発を描こうとするタイプ(同じバンドものだと「ぎぶそん」や「階段途中のビッグ・ノイズ」あたりかな?)と、じめじめと鬱屈した感情の爆発を主題にしているタイプの二つに分けられる気がする。要は主人公がリア充タイプなのか、ひねくれ者のオタクなのかの違いなんだけど。
そういった読者からしてみれば物語の楽しみ方が異なってきて、前者は第三者として純粋な物語として、後者は主人公と自分と一体化させることによって物語に浸かっていく、という読み方になると思う。そういう意味では、僕にとってこの小説は非常に痛い小説だった。
このシリーズの中で、主人公を含むほとんどの登場人物は成長していくわけだけど、そこで全員が理想の自分になれたのかというとそういうわけでもない。もしかすると夢を叶えるのと成長するのは全く別のベクトルにあるというか、むしろそれはまったく逆なのかもしれない。でもそれって、悪いことじゃないと思うし、思いたい。

豊島ミホ「エバーグリーン」




漫画家になる夢をもつアヤコと、ミュージシャンを目指すシン。別々の高校に進学することになったふたりは、中学校の卒業式で、10年後にお互いの夢を叶えて会おうと約束をする。そして10年。再会の日が近づく。そのとき、夢と現実を抱えて暮らすふたりの心に浮かぶものは…。単行本刊行時、大反響を呼んだ青春小説の傑作がついに文庫化。恋と夢と現実のはざまで揺れ動くあなたに贈る物語。


 もしも僕が青春小説を書くとしたら、一番に参考にしたい作品。
 それくらいに良かった。十年前の約束がキーポイントな辺りとか、物語的としては滅茶苦茶ベタベタなんだけど、それを感じさせない瑞々しい筆力が素晴らしい。好き嫌いはあるかもしれないけど、僕は女性の小説家にしか出せないあの独特の感じがかなり好きだったりします。綺麗だけどほろ苦くて、良い意味で少女漫画っぽい小説。でも、恋愛小説というよりは青春小説に近いかな。

 思えばこの小説を最初に知ったのは、高校の時、現国のテストの題材として使われていたのがきっかけでした。あれからこの作品と再会するまで数年の間がありましたが、またこの作品と出会うことが出来たことを嬉しく思います。

西尾維新「少女不十分」



少女はあくまで、ひとりの少女に過ぎなかった…、妖怪じみているとか、怪物じみているとか、そんな風には思えなかった。―西尾維新、原点回帰にして新境地の作品。


 今をときめく売れっ子作家、西尾維新のデビュー十周年記念的作品。
 思えば、僕が読書に目覚めたのも、西尾維新のデビュー作であるクビキリサイクルを書店で手に取ったときからでした。そういう意味で非常に思い入れのある作家です。

 本作の内容は、小説家としてデビューして十年目の小説家である主人公が十年前の事件を語るというもので、読者からすると、まるで著者である西尾維新が語っているように思わせるような構成となっている。ひねくれ者がひねくれて書いた私小説みたいな。

 物語としては意外性もないし、文章も今までにましてクドいため、そこまで面白いとは思わなかったけど、それでも四十二章の『お話』はとても良かったと思う。もはやあの部分のために、この小説が存在していると言っても過言じゃない。ちなみに、原点回帰ではない。たぶん。

 十周年記念作品と言うだけあって、ある程度(全部とは言わない。現に僕もすべては読んでいないし)これまでの著者の作品を読んで、かつ、受け入れれないとこの小説を楽しむことはできないかも。あくまでコアなファン向き。

 皮肉でもなんでもないんだけど、西尾維新ってひねくれた作風の割にハッピーエンドが好きだよね。そのあたり妙に人間味があるというか。

寺田寅彦「柿の種」



日常の中の不思議を研究した物理学者で随筆の名手としても知られる寺田寅彦の短文集。「なるべく心の忙しくない、ゆっくりした余裕のある時に、一節ずつ間をおいて読んでもらいたい」という願いのこめられた、味わいの深い一七六篇。


 大正時代の物理学者が書いた随筆集。いわゆるエッセイというやつ。
 僕は本を一気読みするタイプなのですが、今回は時間をかけて読みました。

 九十年近く前に書かれたとは思えない著者の着眼点には脱帽。といっても、科学の知識があることを前提としているような堅いものではなく、日常の一ページを著者特有の観点から見たものが多く、心がほっこりしたり、くすっと笑えるような要素も多い。ついつい手が止まらなくなってしまうのは、まさに柿の種(笑)。

 一編一編がとても短く、大抵が一ページ、長くて二ページちょっとしかないので、電車の中でも続きを気にすることなく、すっきりと読むことができます。一日一編とマイペースに読んでいくのもいいかもしれません。

海猫沢めろん「零式」



大戦末期の1945年、帝国本土への遠征特攻を敢行した皇義神國は、報復の原子爆弾投下により全面降伏する。そして半世紀後、帝国統治下で鎖国状態の神國。原始駆動機“鋼舞”を駆る孤独な少女・朔夜は、己の破壊衝動をもてあましていた。しかし運命の夜…朔夜の荒ぶる心臓と、囚われの天子・夏月の夢見る翼が出会うとき、閉塞世界の根底を揺るがす大いなる物語が幕を開ける―期待の新鋭が描く、疾走と飛翔の青春小説。


 著者は海猫沢めろんさん。もう名前からしてただ者じゃない。
 元エロゲのシナリオライターでありながら、最近では文学賞を受賞してるというよくわからん人。さらにホストの経験もあるとか。
 元々『左巻キ式ラストリゾート』が読みたかったんだけど、アマゾンにはなかったのでこっちを購入。

 で、肝心の中身だけど、これが結構おもしろい。暗澹とした世界をスピードと勢いで駆け抜ける少女たちによって、一気に物語に引き込まれます。おまけに最後には、あっと思わせるような複線回収があったり、物語として破綻することなくきれいに終わっているのも良い。
 世界観がかなり複雑なので最初は取っつきにくいと感じるかもしれないけれど、読み進めてみると意外とそうでもない。印象としては、SF的なガジェットも含まれたヴァイオレンスな青春小説といった感じ。この人の他の作品が読みたいんだけど、文庫版でないかなあ。

桜庭一樹「GOSICKII ―ゴシック・その罪は名もなき―」




「“灰色狼の末裔”に告ぐ。近く夏至祭。我らは子孫を歓迎する」不思議なその広告を見たヴィクトリカは夜、学園を抜けだし山間の小さな村にやってきた。時が止まったようなこの地で、またも起こった惨劇。それは、かつて彼女の母・コルデリアが巻き込まれた事件と呼応するかのように続いてゆく。そして、最後にヴィクトリカが見抜いた真実とは…!?直木賞作家がおくるダーク・ミステリ待望の第2巻登場。


 直木賞作家、桜庭一樹のミステリーシリーズ第二弾。ちょっと前にアニメ化もしてましたよね。ちなみに一巻はずいぶん前に読んだので、正直、前巻の内容はあんまり覚えてなかったり。

 今回はホームズ役であるヴィクトリカ嬢の母君についてのお話。トリック自体は予想が付くレベルのものだし、ミステリーマニアには物足りないかもしれないけど、少年少女の微妙な関係を描いたライトノベルとして見るならば大満足。
 最近のライトノベルもキスとかエロいハプニングみたいな下品な要素なんていらないから、こういう微笑ましくなるような恋愛(未満な)関係を描いて欲しい。

 今後の二人の関係についての複線も張られてたし、次巻以降が気になるところ。三巻もすでに手元にあるので早めに読もうと思う。

西尾維新「新本格魔法少女りすか」



心に茨を持った小学五年生・供犠創貴と、“魔法の国”からやってきた転入生・水倉りすかが繰り広げる危機また危機の魔法大冒険!これぞ「いま、そしてかつて少年と少女だった」きみにむけて放つ、“魔法少女”ものの超最前線、りすかシリーズ第一弾!魔法は、もうはじまっている。

 西尾維新による、魔法少女もの。――というよりは、どっちかというと少年漫画とかに近い、異能を使った頭脳戦になっていて、ジョジョとかが好きな方には合うんじゃないかと思う。
 今後はどうなるかはわからないけど、西尾維新にしては珍しく王道的な作品。
 中編集になっており、今巻は一話から三話までを収録。



・一話 優しい魔法はつかえない。

 四人が犠牲になった電車事故を巡る作品。一話ということで、世界観や魔法、主人公たちの境遇などの説明回であり、また今後のお約束パターンの雛形にもなっている。三話中、もっともミステリーっぽい。
 やはり本作も、主人公とヒロインがすでに出会ってしまっているところから物語が始まるという、西尾維新お得意のパターン。


・二話 影あるところに光あれ。

 女の子の誘拐事件を巡るお話。グロテスクでキツい描写と展開なため、本作の中でもっとも西尾維新らしさを感じる。終盤のキズタカの指示に泣きながらも従う辺り、二人のかみ合ってなさが見えるが(まあ命令内容からして仕方ないけれど)、それについては次話に持ち越されることに。


・三話 不幸中の災い。

 りすかとキズタカの関係を巡るお話。ここでりすかにとっての『おにいちゃん』である水倉破記(実際は従兄弟)が登場するけど、兄的キャラクターがシスコンっぽいのはやっぱり西尾維新的には恒例なんだろうか。
 物語的にはようやくプロローグが終わったというところで、互いに関係を見直しつつも、今後物語がどのように転んでいくのかが楽しみ。

よしもとばなな「デッドエンドの思い出」



つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。


 五作品からなる短編集。

 この本に登場するどの女性にも悲しくて痛い過去や出来事があって、それを等身大の視点から読みやすく表現している。また、日常の漠然とした不安や切なさが丹念に描かれている点も良かった。こういう所が、よしもとばななが女性から圧倒的に支持されている理由なんじゃないかと思う。

 個人的に一番好きなのは「幽霊の家」。ほっこりとして、幸せな気分になりました。日曜日の午後に光の当たる場所で読みたい感じ。
 まるっこいというか、女子高生が書きそうなふわふわとしたつかみ所のない文体なんだけど、なぜか心の奥底に染み渡ってくる。そんな文章を僕も書いてみたいものです。

感想の目録というかまとめというか

とりあえず今までの感想の目録的なものです。随時更新

【あ行】
秋山瑞人「猫の地球儀 焔の章」
・秋山瑞人「猫の地球儀 その2 幽の章」
我孫子武丸「殺戮にいたる病」
綾里けいし「B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる」
石田衣良「アキハバラ@DEEP」
海猫沢めろん「零式」
大槻ケンヂ「グミ・チョコレート・パイン グミ編」
大槻ケンヂ「グミ・チョコレート・パイン チョコ編」
大槻ケンヂ「グミ・チョコレート・パイン パイン編」
大槻ケンヂ「ステーシーズ―少女再殺全談」

【か行】
神林長平「言壺」
九岡望「エスケヱプ・スピヰド」
京極夏彦「鉄鼠の檻」
京極夏彦「絡新婦の理」
越谷オサム「陽だまりの彼女」

【さ行】
桜庭一樹「GOSICKII ―ゴシック・その罪は名もなき―」
柴村仁「プシュケの涙」
十文字青「薔薇のマリア〈1〉夢追い女王は永遠に眠れ」
清涼院流水「コズミック 流」
清涼院流水「ジョーカー 清」
清涼院流水「ジョーカー 涼」 
清涼院流水「とくまでやる」
清涼院流水「とくまつ 夜霧邸事件」
清涼院流水「とく。」

【た行】
多崎礼「煌夜祭」
竜ノ湖太郎「問題児たちが異世界から来るそうですよ?YES! ウサギが呼びました!」
田中ロミオ「灼熱の小早川さん」
辻村深月「スロウハイツの神様」
豊島ミホ「エバーグリーン」


【な行】
中井英夫「虚無への供物」
中村九郎「樹海人魚」
奈須きのこ「DDD 1」
西尾維新「少女不十分」
西尾維新「新本格魔法少女りすか」
野尻抱介「ふわふわの泉」

【は行】
橋本和也「世界平和は一家団欒のあとに」
平山夢明「独白するユニバーサル横メルカトル」

【ま行】
丸山くがね「オーバーロード1 不死者の王」
・丸山くがね「オーバーロード2 漆黒の戦士」
三津田信三「首無の如き祟るもの」
森奈津子「からくりアンモラル」

【や行】
よしもとばなな「デッドエンドの思い出」
米澤穂信「クドリャフカの順番」
米澤穂信「遠まわりする雛」
萬屋直人「旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。」


【わ行】
渡瀬草一郎「空ノ鐘の響く惑星で」
渡瀬草一郎「空ノ鐘の響く惑星で②」
渡瀬草一郎「空ノ鐘の響く惑星で③」

【小説以外】
寺田寅彦「柿の種」
飲茶「史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち」

【ノベルゲー】
魔法使いの夜

【漫画】
・阿部共実「空が灰色だから」 1巻 2巻 3巻
・大武政夫「ヒナまつり」 1巻 2巻
・KAKERU「魔法少女プリティ☆ベル」 1巻

渡瀬草一郎「空ノ鐘の響く惑星で」




毎年、ある季節になると、空から鐘に似た音が降ってくる世界。『御柱』と呼ばれる宙に浮く巨大な柱がある世界。そんな世界に生じたひとつの噂話―。“深夜をまわる頃、『御柱』の一部に、若い女の姿が浮く―”事実を確かめに行ったフェリオの前に現われたのは、御柱の中に浮かぶ異装の少女の姿だった―。一人の少年と少女の出会いが歴史を創る…!『陰陽ノ京』、『パラサイトムーン』の渡瀬草一郎が渾身の力で作り出す『世界』と『人々』が向かう先は―。


 面白いと評判だったので、ブックオフでまとめ買いしたシリーズ。
 こういう一昔前のライトノベルって古本屋でしか手に入れることができないってのがちょっと嫌だなあ。いっそのこと電子書籍にしちゃえば(挿し絵を表示できるかどうかは知らないけど)、著者にもお金が還元できるんじゃないかと思ったりするけど、まあでもコスト的に無理なんだろう。古本屋巡りも結構好きなんで、別にいいんだけどね。

 中身についてはいっさい前知識がなかったので、最初はファンタジー戦記物なのかなーと思っていたら、読み進めていくうちにSFになって驚いた。というか、一冊でとりあえず事件が一段落するようなパターンだと思って読み進めていたけど、続刊が前提なのね。

 文章もすっきりして読みやすいし、主人公も含めて魅力的なキャラクターも多く、良い意味で一昔前のライトノベル、という印象。まだ物語としては「起」の部分っぽいので、これからどう話が盛り上がっていくかが楽しみ。

清涼院流水「とくまつ 夜霧邸事件」




双子の女子高校生フレアとクレアは、弓道部の仲間の夜霧咲の生命を護るため、年上のボーイフレンド―出有特馬、山本新悟とともに、夜霧邸内の弓道場で武装する。待つこと24時間…。ブジに夜霧咲を護り通せたと安墸した矢先、事件は始まる。敷地面積1000坪の夜霧邸を護る1000人もの凄腕ボディガードが次々に殺害され、ついに敵の魔の手はフレアたちにも迫る―。謎めいた敵の人数は?攻撃の方法は?大説家・清涼院流水が入魂の書き下ろしで贈る、掟破りの「館ミステリー」!新たなショウが、今、幕を開ける。



 以下、微妙にネタバレ注意。



 読んでる途中にこの本を壁に投げつけなかった僕は、結構我慢強い人間だと思う。

 前作は見開き一ページで一日を描くという実験小説だったけど、今回は見開き一ページで三分~十分くらい経過するという形式になっている。

 というか、この本を「館ミステリー」にカテゴライズできる出版社はおかしい。細い針を投げて千人殺すって、ラノベならともかく、一応ミステリーを謳っている作品でやっていいはずがないだろうと。

 ちなみにこの作品、あらすじの部分に到達するまでに本編の九割を費やしているため、ぶっちゃけ、あらすじを読んだ後に202ページ(ほぼクライマックス)から読み始めても内容は十分に理解できる。

 もしも本屋にこの本があったら、是非、手に取ってみてください。非常に希有な体験が出来ると思います。ただ、わざわざお金を出して買うのはおすすめしません。
 僕はこの本を古本屋で手に入れたのですが、これを新品で買った人がいることに同情を覚えずに入られませんでした。どうしてこんなのが流通に乗ったんだろう……。

 ――というのは、ミステリーとして読んだときの感想。しかし、これを『大説』としてみるのなら、また別の評価になる……らしい。
 僕は清涼院流水をこのシリーズで初めて読んだ、いわば新参者なので、単に良さが分からなかっただけかもしれません。

米澤穂信「遠まわりする雛」




省エネをモットーとする折木奉太郎は“古典部”部員・千反田えるの頼みで、地元の祭事「生き雛まつり」へ参加する。十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという祭りだが、連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態に。千反田の機転で祭事は無事に執り行われたが、その「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する―。あざやかな謎と春に揺れる心がまぶしい表題作ほか“古典部”を過ぎゆく1年を描いた全7編。


 古典部シリーズ四作目であり、今回は短編集です。
 各編は時系列順に並んではいますが、それぞれ時間が開いており、これまでの長編三作の隙間を埋めるような形となっています。

 以下、多少のネタバレがあります。




・やるべきことなら手短に
 奉太郎が古典部に入った直後の話。
 冒頭で奉太郎の信条である省エネ主義が語られるが、この後千反田さんと関わっていくことによって、それが少しずつ変化していくことを思うと面白い。奉太郎が入部当初、千反田さんのことをどう思っていたのかが知ることもでき、この作品が二人の変化にフォーカスを当てていることがよく分かる一遍。トリックとしては、この作品の中で最もひねくれていて一番好きなタイプ。


・大罪を犯す
 教師が教室を間違える、というあるあるネタをまじめに推理するお話。トリックというよりは、千反田さんがどのような人間なのか推理(理解)しようとする奉太郎が見所。


・正体みたり
 『氷菓』事件の後、夏休みの合宿でのお話。冒頭の枯れ尾花の部分を最後にうまく持ってくる辺りが上手いと感心した。
 幽霊は幽霊のまま信じていた方がいいと考える奉太郎と、幽霊の正体を知りたいと思う千反田さん。結局いつも通り頼まれるまま推理しちゃうんですが、その結果、二人は悲しい事実を知ってしまう。こういうほろ苦さも含めて、一番青春している話だと思う。そして、この辺りから、二人の距離はさらに近くなっていくのが分かる。


・心当たりのある者は
 カンヤ祭後のお話。放課後の校内放送について、教室から一歩も出ることなく推理するという安楽椅子もので、結末はまさかの方向へ。
 真相はちょっと物騒で、どちらかというと小市民シリーズに近い印象を受けた。


・あきましておめでとう
 元旦に、千反田さんと納屋に閉じこめられるというラブコメみたいなお話。真相を解明するのではなく、どのように脱出するのかというのがこれまでになく新しい。
 ここで奉太郎は千反田さんが自分とは違う世界に生きているのだと認識します。

・手作りチョコレート事件
 タイトルから分かるとおり、二月のバレンタインデーのお話。里志と摩耶花の関係、そして里志の摩耶花に対する複雑な感情が描かれている。こういう所やトリックからして、最初の一遍である『やるべきことなら手短に』の里志と摩耶花バージョンとでも言うべきだろうか。
 また、千反田からチョコレートを貰えなかった奉太郎だが、それ以上に彼女の言葉がチョコレート以上に甘い。 


・遠まわりする雛
 春休みのお話。そして、ここで奉太郎が千反田さんに対する好意をはっきりと意識することになる。
 タイトルの雛というのは千反田さんのことで、この一冊(と長編三冊)を通して、奉太郎との距離がゆっくりと近づいてきているってことなのかな? うーん、古典部シリーズってどれもタイトルが秀逸だよなあ。


 トリック以上に、二人の関係に注目して読んでしまった本作。短編ミステリーが好きな僕にとってはかなり満足できるものでした。
 今後二人の関係がどうなるかはまだ分からないけど、きれいな形で決着すればいいなと思います。

清涼院流水「とく。」



帰る家を失い、殺しに長けた処刑人たちに命を狙われる身となった5人の若い男女。冷酷無比な敵は若者たちを分断し、互いに殺し合わせるべく、狡猾な罠を仕組んだ。再会した母親・美木愛恋から自分の名前に隠された出生の秘密を聞いた出有特馬は、生き残った仲間たちと共に、最終決戦の地へ向かう。かつて町の住民全員が殺されたという、その曰くつきの土地で―すべてに決着をつける最後の死闘の幕が上がる!前2作『とくまでやる』『とくまつ』の伏線も回収して、あらゆる謎を鮮やかに「解く。」!ノンストップ・バトル・ミステリー最終章。




 ネタバレ注意。



 あらすじにノンストップ・バトル・ミステリーとか書いちゃう時点で、逆ベクトルに期待に胸が膨らんでしまう本作ですが、なんだかんだで面白かった。ような気がする。

 というのも、ミステリーをやろうとしてた感があった前巻とは違い、今回はミステリーであることを捨て去り、完璧なバトル物なっているからです。
 最近のジャンプはすべてが血統で決まるとか揶揄されていますが、まさしくそれを彷彿とさせる展開の連続。主人公の両親について、衝撃の秘密が語られたかと思うと、何の説明もなく「気」とか出てきちゃう。そして、「気」でネクタイを剣にしたりしちゃう。最後にはビルを破壊したりの大暴れ。
 まさかミステリー小説のつもりで読んでいたのが、途中から少年マンガへと変貌を遂げるとは思わなかった。途中からもう楽しめればなんでもいいやーという気分になったため、超展開をにやにや楽しみながら読んでたけど。もしかすると、この超展開こそが清涼院流水が書く「大説」の重要な要素となっているのか。

 にしても、最後が少々投げっぱなしなのがちょっと残念。なぜか特馬が女の子三人と同居するハーレムみたいな終わり方になってるし。これじゃあ、死んだ新悟君が浮かばれないよなあ。